ストレスが精子にも悪い影響を与えるであろうとは誰しも思っているでしょうが、それを客観的に評価するのは非常に困難です。今回はその難しいテーマにチャレンジして、米国生殖医学会雑誌(Fertility and Sterility)に掲載された論文(Perceived stress in relation to testicular function markers among men attending a fertility center. Fertility and Sterility 2025; 124: 62-70)を紹介します。
マサチューセッツ総合病院(ハーバード大学系列の世界的に有名な病院です)の不妊外来を受診している18歳から55歳の男性718人について、Cohenのストレス・スコア(PSS-4)を使って自覚しているストレスの程度を申告してもらい、精液検査(精液量、精子濃度、総精子数、精子運動率、精子正常形態率)、精子DNA損傷検査、血液のホルモン検査(黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、プロラクチン、インヒビン、テストステロン、エストロゲン)の結果との関連を評価しています。
自覚しているストレスが強いことと、総精子数、正常形態精子数、精子濃度、総運動精子数、精子正常形態率が低いこととの関連が明らかになり、最もストレスの自覚が低いグループと最も高いグループでは、精子総数は約30%もの差がありました。しかし、血中ホルモン値と精子のDNA損傷についてはストレスとの関連はみられていません。
確かにストレスは精子の状態を悪くするようです。ストレスがホルモンのバランスを乱し、それが精子に悪影響をおよぼすという機序が考えやすいですが、ストレスの程度でホルモン値に差はありませんでした。ホルモンに働きかける薬にストレスの悪影響をやわらげる効果は期待できないということになります。
この研究では自覚しているストレスについて検討していますが、当然自分では気づいていないストレスもあります。ストレスと精子の関係を明らかにし、それを治療に結び付けるにはさらに周到に計画された研究が必要です。