あ行
陰嚢超音波検査
陰嚢に超音波探触子(プローブ)を当て、陰嚢内の精巣や精巣上体およびその周囲を観察する検査で、痛みなどの苦痛がまったくないのに非常に情報量が多い有用な検査である。精巣、精巣上体などの陰嚢内を描出して臓器の形や大きさを評価するだけでなく、その内部構造も観察できるため精巣腫瘍や精路の狭窄/閉塞はその場で診断できる。また、カラードプラ法を併用すれば血流も描出できるため精索静脈瘤の診断にも必須の検査である。
インポテンツ
勃起障害/勃起不全/EDの古い呼び方。不能やインポテンツという言葉は男性を侮蔑する表現であり、現在は使われない。→勃起障害、勃起不全の項を参照。
エイズ
HIV感染による免疫不全が進行し、日和見感染症を合併した状態を後天性免疫不全症候群(エイズ、AIDS)という。→HIV感染症の項を参照
か行
肝炎
肝炎ウイルスによる感染症である。A型肝炎は通常はA型肝炎ウイルスの経口感染により起こるが、男性同性愛者では性感染症としての流行があることが確認されている。B型肝炎はB型肝炎ウイルスにより感染する。B型肝炎も最初は男性同性愛者で性行為により感染することが知られたが、その後異性間の性交渉でも感染することが明らかになった。C型肝炎はC型肝炎ウイルスが血液を介して体内に入り感染する。稀ではあるが、性行為でも感染しうるので性感染症のひとつとして注意が必要である。性感染症としての肝炎に特異的な診断、治療はなく、全身疾患としての肝炎の診断、治療に準じる。A型肝炎、B型肝炎ではワクチンが予防に有効である。
奇形精子症
正常な形態の精子が少なく、形態不良な奇形精子が多いものを奇形精子症という。奇形精子によって児の先天異常がもたらされるものではない。WHOの規定では正常形態精子が4%未満であれば奇形精子症とされる。
逆行性射精
精液の全部あるいは一部が膀胱方向に流入(逆行)するため、外尿道口からの精液の射出が全部あるいは一部なくなるのが逆行性射精で、神経性、薬剤性、尿道/膀胱頚部の機能/解剖学的異常などの原因に分けられる。三環系抗うつ剤などの内服により改善することがある。
クラミジア感染症
クラミジア・トラコマチスを原因微生物とする、尿道、咽頭、子宮頚管、眼瞼結膜の感染症である。性的接触により感染する性感染症のうちで最も多く、男性では尿道炎や精巣上体炎を発症する。性器クラミジア感染症では、精路の通過障害などの後遺症により男性不妊症の原因となることがある。クラミジア感染症は症状が軽かったり、なかったりすることがあるためスクリーニング検査が推奨されている。
ケジラミ症
シラミ類の一種であるケジラミが陰毛に寄生するのがケジラミ症で、外陰部の痒みが症状である。主に陰毛に寄生し、吸血するが、陰毛だけでなく腋毛、胸毛、髭、まゆ毛、まつげにも寄生し、稀には頭髪にもみられることがある。ケジラミ症は主に陰毛の接触により感染する性感染症であり、虫体や陰毛基部の虫卵が確認されれば、治療は剃毛や殺虫薬により行われる。相互感染を起こすことがあるので、パートナーの治療も同時に行なわなければならない。
顕微授精(ICSI)
最も高度な生殖補助医療(ART)。卵子を体内より取り出し(採卵)、1個の精子を直接注入し、受精した卵を培養し、胚にして子宮に戻す(胚移植)方法。体外受精では卵子と精子を接触して受精させるが、顕微授精では卵子に直接精子を注入する。
抗精子抗体
精子に対して作られる抗体で、女性にだけでなく男性にもできることがある。抗精子抗体が形成されると、精子の運動性が低下するだけでなく、受精能も低下する。
さ行
人工授精
運動精子数が少ない場合などに、調整した精子浮遊液を排卵に合わせてチューブで子宮内に注入する治療法である。一般的に成功率は5-10%とされる。
精液検査
男性不妊症の検査でもっとも重要で、精液を肉眼的、顕微鏡的に調べるものである。無精液症、乏精液症、無精子症、乏精子症、精子無力症、奇形精子症、精子死滅症、膿精液症、血精液症などが診断されるが、精液所見が著しく不良でも絶対に妊娠できないとはいえないし、逆に精液所見が非常に良好でも妊娠できないことがある。
精液減少症(乏精液症)
WHOの規定では精液量の基準値は1。5ml以上であり、1。5ml未満のものを精液減少症(乏精液症)という。精液量の減少があれば、逆行性射精がないかを確認する必要があり、あればその原因となる糖尿病や神経疾患についても調べねばならない。精嚢-射精管部の精路異常やアンドロゲン(男性ホルモン)の低下/欠乏も精液減少症(乏精液症)の原因となる。
精管精嚢造影
精管より造影剤を注入し、精管より末梢の精路(精管-精管膨大部-精嚢-射精管)を描出するレントゲン検査である。外科的切開が必要なため侵襲が大きいにもかかわらず、他の検査で代用可能になった部分が多く、最近はあまり行われない。
性感染症(STI)
性感染症とは、性的接触を介して感染する感染症であり、一般的には性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、梅毒および淋菌感染症をさすが、その他にHIV感染症/エイズ、性器ヘルペス、肝炎なども含まれる。男女ともに不妊の原因になることがあり、無症状のことも多いので注意が必要である。
性器カンジダ症
真菌の一種であるカンジダによる性器の感染症で、女性に特有な疾患であり、男性では稀にしかみられない。男性では亀頭炎を起こし、掻痒感と違和感が自覚症状であるが、包茎や糖尿病などの基礎疾患をもつことが多い。
性機能障害
性行為に関連した障害全般のことを性機能障害といい、男性にも、女性にもある。男性では、性的意欲の低下、勃起障害/勃起不全(ED)、射精障害(早漏、膣内射精障害)、オルガスム障害などがあり、男性不妊の原因となる。
性器ヘルペス感染症
単純ヘルペスウイルス1型、2型による感染症で、性器やその周囲に水泡や潰瘍を形成する。性器ヘルペスは再発を繰り返すことが多く、性器ヘルペス患者の60-70%は再発である。抗ヘルペスウイルス薬により治療しても、潜伏感染した単純ヘルペスウイルスは消失しないので、再発は回避できない。
精索静脈瘤
精索静脈瘤は、内精静脈の異常な拡張により陰嚢内の静脈が瘤(こぶ)状に腫れているもので、左側にみられることが多いが、両側にあることも稀ではない。一般男性の15%、男性不妊症患者の40%、続発性不妊(二人目不妊)の患者では80%にみられるとされ、男性不妊症との関連が古くから知られている。腹部から精巣(睾丸)に逆流した温かい血液が精巣(睾丸)の温度を上昇させるため、精子を作る機能に悪影響をおよぼすと考えられているが、その機序は完全には解明されていない。精索静脈瘤の手術により50%から80%の患者さんで精液所見が改善したとされており、精索静脈瘤があるならば、その手術は造精機能の改善が最も期待できる治療である。
精子異常
精液の量、精子の数や動き、形態などが基準値を満たさないと、男性不妊症の原因となる精子異常と診断される。⇒各項を参照。
精子死滅症
精液中の生存している精子の割合が低いものを精子死滅症という。WHOの規定では精子生存率の基準値は58%以上とされている。
精子不動症
精液中の精子がまったく動いていない、重症の精子無力症(カルタゲナー症候群など)を精子不動症と呼んでいることがあるようだが、一般的な医学用語ではない。
精子無力症
精液中の前進運動している精子の割合が低いものを精子無力症といい、男性不妊の原因の一つである。WHOの基準(2010年)によれば、前進運動精子が32%未満であれば、精子無力症とされる。
性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)
視床下部から放出された性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の作用で、脳下垂体前葉から黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)が分泌される。LHは精巣のライディッヒ細胞に働いてテストステロンを分泌させる。FSHはテストステロンとともに精子産生を促す。
精巣上体
精巣の上部から後部に付着する臓器で、精巣で産生された精子の出口である。精巣上体は頭部、体部、尾部に分けられ、尾部は精管につながる。精子は精巣上体を通る間に運動性を持つ(動く)ようになる。淋菌やクラミジアによる尿道炎が重症化すると精巣上体炎を引き起こし、精路の通過障害により閉塞性無精子症などの男性不妊症の原因になることがある。
脊髄損傷(脊損)
脊髄に損傷を受けると、損傷の部位により勃起や射精が障害され、男性不妊症の原因となる。挙児には、以前は電気射精などによる精液の採取が試みられていたが、最近では精巣内精子による顕微授精が行われることが多い。病因からすると造精機能は正常に保たれていると考えがちであるが、精巣内精子回収術(TESE)で精子が回収できないことが少なからずある。
尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルスの感染による感染症で、性的接触を介して感染する性感染症の一つであるが、性的接触以外でも感染することがある。陰茎、陰嚢皮膚や尿道口などに乳頭状の腫瘍が多発するが、ときに巨大になる。
前立腺炎
前立腺に炎症が生じた状態で、急性前立腺炎では発熱、悪寒、腰部痛/会陰部痛などの全身症状に加えて、頻尿、残尿感や排尿時痛などの尿路症状がある。原因菌は大腸菌であることが多い。慢性前立腺炎では排尿困難、頻尿、夜間頻尿や腰部痛/会陰部痛などをくり返す。精液には前立腺の分泌液が含まれており、精路は前立腺を通過しているので、前立腺の炎症が男性不妊に関与することもありうる。
た行
体外受精
生殖補助医療(ART)のひとつで、卵子を体内より取り出し(採卵)、精子とともに培養して受精させ(媒精)、胚まで培養して(胚培養)、子宮内へ注入(胚移植)する方法が体外受精である。
男性不妊治療
精液検査の結果に問題があれば、男性不妊症としての治療が必要になる。乏精子症や精子無力症に精索静脈瘤を合併していれば、手術で精液所見が改善する期待が高い。無精子症では閉塞性、非閉塞性の鑑別が必要で、それぞれで治療成績が異なる。性機能障害による不妊では病態に合わせた治療が必要である。⇒各項を参照。
男性不妊治療薬
精液所見が不良な場合には、抗酸化薬(ビタミンEやC、コエンザイムQ10、L-カルニチンな)や漢方、抗エストロゲン薬であるクロミフェンの内服が改善に働くことがあるが、精索静脈瘤手術と比較すると治療効果は高くない。
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症では、hCGとFSHによる内分泌療法で精子形成が期待できる。
男性不妊の原因
男性不妊の原因は精索静脈瘤、停留精巣、クラインフェルター症候群に代表される性腺機能低下症などによる精液所見の不良が主なものであるが、特発性(原因不明)の場合も多い。性機能障害、全身疾患や精路の通過障害なども男性不妊の原因となる。
男性ホルモン(アンドロゲン)
男性の血中男性ホルモンの95%は精巣(睾丸)から分泌されるテストステロンで、5%は副腎から分泌されるDHEAである。⇒テストステロンの項を参照。
膣トリコモナス
原虫であるトリコモナスによる性感染症で、女性の膣だけでなく、男性の尿路や前立腺にも感染する。他の性感染症と違って、幅広い年齢層に感染がみられ、性行為以外のタオルや便器、風呂での感染が知られている。
男性のトリモナス感染では無症状のことが多く、パートナーの感染が確認されたら、内服薬(メトロニダゾール)により治療する。
停留精巣(睾丸)
精巣(睾丸)は胎児期に腹部からそ径管を通って下降し、出生時にはほとんどが陰のう底部に位置している。両側あるいは片側の精巣(睾丸)が陰のうまで下降せず、そ径部や腹部に留まっている状態が停留精巣(睾丸)であり、男子外性器の先天異常で最も頻度が高い。生下時に停留精巣であっても、生後3ヵ月までに正常位置まで下降することも多く、1歳時での停留精巣の頻度は1%以下である。精巣腫瘍の発生率が高くなること、造精機能に悪影響をおよぼすことから、現在は2歳までに手術(精巣固定術)を受けることが推奨されている。
停留精巣は造精機能障害の原因になり、両側性の停留精巣では無精子症になることもある。現在も停留精巣であればもちろんだが、子供のころに停留精巣の手術を受けたと聞いているのであれば、造精機能障害のリスクが高いので、年齢や不妊期間にかかわらず、直ちに不妊検査を受けるべきである。
テストステロン
テストステロンは精巣(睾丸)のライディッヒ細胞から分泌される男性ホルモンである。脳の下垂体前葉から分泌される黄体化ホルモン(LH)が精巣のライディッヒ細胞に働いてテストステロンを分泌する。テストステロンと下垂体前葉から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)により精子形成が促進される。
な行
軟性下疳
軟性下疳は軟性下疳菌による性感染症で、外性器に有痛性の潰瘍を形成し、やがてそ径リンパ節も大きく腫脹し、強い疼痛をきたす。わが国では海外で感染した患者がほとんどで、輸入性感染症とも呼ばれる稀な性感染症である。抗菌薬により治療されるが、軟性下疳菌は薬剤耐性化が速いことが知られている。
尿中精子検査
射精直後に排尿した尿中に精子が含まれているかを確認する検査で、逆行性射精の診断に用いられる。⇒逆行性射精の項を参照。
は行
梅毒
梅毒トレポネーマの感染症で、性行為により感染する性感染症の代表的疾患である。皮膚や粘膜の小さな傷から梅毒トレポネーマが感染し、血液を介して全身に広がって種々の症状が出現する。
避妊法
避妊法には、女性側では経口避妊薬(ピル)の内服や子宮内への避妊器具(ペッサリー、IUD=避妊リング)の挿入などがある。男性側は、膣外射精、オギノ式(妊娠の可能性が高い時期は性交渉しない)、コンドームの装着が長く行われてきたが、どの方法も確実性に乏しい。最も信頼できる男性側の避妊法はパイプカット(両側精管結紮術)だが、外科手術となり、再度挙児を希望するときは精管をつなぎ直す手術や精巣内精子による顕微授精が必要になる。ホルモンに働きかける薬剤など、安全かつ効果的で、挙児を希望するときは中止するだけで良い方法が開発中であるが、まだ実用化されていない。
非閉塞性無精子症
精子を作る働き(造精機能)が不良で、精液中に精子がみられないものを非閉塞性無精子症という。精巣自体に問題がある一次性と脳からの精巣のコントロールが障害されている二次性がある。
一次性の多くは先天性であるが、染色体異常のクラインフェルター症候群など原因がはっきりしているものもあるが、原因が分からないものが多い。後天性ではムンプス(おたふく風邪)後の精巣炎、外傷、薬物や放射性線による傷害などの原因がある。
二次性には先天性の視床下部-下垂体の障害、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、カルマン症候群、ゴナドトロピン単独欠損症、脳腫瘍、脳の外傷などの原因がある。
挙児の希望があれば、一次性では顕微鏡下に精巣内の精子をさがす顕微鏡下精巣内精子回収術(microdissection TESE)を行い、精子が回収されれば顕微授精を行う。二次性で脳下垂体からのホルモン分泌が足りないときには、不足したホルモンを補充する内分泌治療で精子が出現することがある。
フーナーテスト/
性交後頸管粘液検査(PCT)
性交後に頸管粘液を採取し、顕微鏡でそのなかの精子の数と運動性を調べる検査である。運動精子が多いほうが良く、精子がまったく見つからなければ無精子症を疑わねばならない。
不妊治療
一般的には、避妊せずに性交渉をもって12ヵ月しても妊娠がないと不妊症とされる。不妊症のカップルが子供を授かるための検査が不妊検査であり、治療が不妊治療であるが、不妊検査を受けるのには1年待たなければならないというものではなく、最近は女性の年齢が35歳以上の場合は不妊期間6ヵ月で不妊検査を受けるべきという考えもある。不妊の原因は男女でほぼ半々であることが知られており、当然ながら不妊検査も不妊治療も女性と男性それぞれが受けなければならない。
閉塞性無精子症
精巣内で精子は作られているが、精子の通り路に通過障害があり、精子が精液中にみられないものを閉塞性無精子症という。生まれつきに精管がない先天性精管欠損症、鼠径ヘルニア手術や炎症により精路が閉塞したものなどの原因がある。挙児には、精路の再建手術や精巣/精巣上体からの精子回収が必要となる。
乏精子症
精子数が少ないものを乏精子症という。男性不妊の原因の一つであり、精液中の精子濃度が1、500万/ml未満を乏精子症とし、500万/ml以下では高度乏精子症とされる。WHOによる総精子数(1回の射精で出た精子の総数)の最低基準値(2010年)は3、900万である。
勃起障害/勃起不全(ED)
満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が勃起障害/勃起不全(ED=Erectile Dysfunction)であり、男性不妊の原因となる。以前はインポテンツ/不能など不適切な表現が使われていた。器質性、心因性、両方の混合性に分類される。PDE5阻害剤(バイアグラ/レビトラ/シアリス)が有効なことが多い。男性型脱毛症の治療薬であるフィナステリド(プロペシア)や抗うつ薬のSSRIなどは、EDや精液所見の悪化の原因となることがある。
ホルモン検査
男性不妊症の検査で最初に測定されるホルモンは、テストステロン、FSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体化ホルモン)、プロラクチンが一般的である。これらのホルモンの値から内分泌学的な診断が下される。FSHが正常範囲内にあっても精子が作られているとは限らないが、FSHが上昇していれば造精機能障害があると判断される。
ま行
無精液症
精液がまったく射出されないものを無精液症という。精嚢-前立腺-射精管から尿道への精液の射出がない状態で、糖尿病や脊髄損傷、骨盤内手術、神経疾患などによって射精に関わる神経の障害が起きていることが多いが、薬剤の副作用として生じることもある。
無精子症
精液中に精子を認めないものを無精子症という。精路の通過障害が原因の閉塞性無精子症と、造精機能障害が原因の非閉塞性無精子症に大別される。閉塞性無精子症には先天性精管欠損症、鼠径ヘルニア手術の後遺症、炎症後の精巣上体管閉塞、外傷後の精路閉塞、精管結紮術(パイプカット)後の精管閉塞などがある。非閉塞性無精子症はさらに精巣に障害がある一次性と造精機能の調節に問題がある二次性に分けられる。一次性の多くはクラインフェルター症候群などの先天性であり、後天性のものとしてはムンプス(おたふく風邪)精巣炎後や外傷、薬剤や放射線による傷害などがある。二次性では低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(嗅覚障害を合併すればカルマン症候群)、ゴナドトロピン単独欠損症などが知られている。
挙児には精子を獲得しなければならないが、そのために閉塞性無精子症では精路再建術や精巣内精子回収術(TESE)が行われる。一次性の非閉塞性無精子症では顕微鏡下精巣内精子回収術(microdissection TESE)を施行する。二次性の非閉塞性無精子症では内分泌(ホルモン)療法で射出精子が出現することがある。
問診
不妊期間、妻の年齢や既往歴、家族歴などを予診票や口頭で尋ねるのが問診である。男性不妊症の診療の第一歩として欠かせないものであり、問診だけでも不妊の原因が推測されることもある。既往に慢性気管支炎があれば、カルタゲナー症候群が疑われるし、糖尿病を合併していれば逆行性射精が存在するかもしれない。両側のそ径ヘルニア手術を受けていれば閉塞性無精子症の可能性がある。使用中の薬物についても確認が必要である。造精機能障害をきたすことがある男性型脱毛症(AGA)治療薬のフィナステリド(プロペシア)を服用している患者も多い。
や行
ヤング症候群
ヤング症候群では気管支拡張症、慢性副鼻腔炎などに、精巣上体頭部の精路閉塞による無精子症を合併する。閉塞性無精子症により男性不妊症の原因となるが、非常にまれな疾患である。
ら行
淋菌感染症(淋病)
淋菌感染症(淋病)は淋菌による感染症で、男性では主に尿道炎を起こすが、咽頭や眼瞼結膜にも感染する。クラミジア感染症とならんで多い感染症であり、淋菌感染症とクラミジア感染症を併発していることも多い。抗生物質による尿道炎の治療が適切に行われず重症化すると、淋菌が精管を通じて精巣上体まで上行し、精巣上体炎を引き起こす。両側の精巣上体炎では、精路の閉塞をきたし無精子症の原因になることもある。
淋病
英数字
ED
Erectile Dysfunctionの略で勃起障害、勃起不全のこと。→勃起障害、勃起不全の項を参照。
HIV感染症
血液などの体液を介したHIV(Human Immunodeficiency Virus)の感染症で、免疫力が進行性に低下していく。日本では異性間、男性同性間の性的接触により感染する(性感染症)ことが多い。HIV感染による免疫不全が進行し、健康な状態であれば感染しないような病原体による感染(日和見感染)を起こすと、後天性免疫不全症候群(エイズ、AIDS)を発症したとされる。HIV感染症治療の進歩はめざましく、エイズの死亡率も低下しているが、感染者の多くは自覚がなく、感染を広げているのが現状である。
STD
性感染症は、以前はSTD(Sexually Transmitted Disease)と呼ばれていたが、最近はより適切にSTI(Sexually Transmitted Infection)と表現されるようになった。→性感染症(STI)の項を参照
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