1年間の子作りで約85%のご夫妻はご妊娠になるとされており、残り15%のご妊娠になれなかったご夫妻が「不妊症」ということになります。
※WHOのデータ
不妊症のうち、男性だけに原因があるのが24%ですが、男女両方に原因がある24%と合わせると、全体の約半分が男性側にも問題がある「男性不妊症」と定義づけられます。一般男性の約20人にひとりは男性不妊症といわれています。
不妊症の原因の半分は男性にもあるのですから、妊娠を希望して1年間性交渉をもっても妊娠しなかったのであれば、女性だけでなく男性も同時に不妊検査をスタートしなければなりません。さらに、女性は年齢を重ねることで妊娠率が急激に低下し、逆に流産率は急激に上昇しますので、奥様が32歳以上なら、半年で検査を受けたほうが良いでしょう。
女性の不妊検査は体に負担がありますが、男性の検査は痛みも負担もありませんので、ご主人が率先して受診されるべきです。
注目すべきは男性不妊症全体の1/3が精索静脈瘤による造精機能障害ということです!
性機能障害があれば通常の性交渉が持てませんから、当然ながら妊娠もできません。また、性機能障害のある男性に造精機能障害もみられることがあります。
※平成27年の厚生労働省の調査より
男性の不妊検査の基本となるのが精液検査です。精液検査の結果で妊孕性(子供をつくる能力)のすべてが分かるわけではありませんが、健康状態を含め子作りを進めるために重要な情報が得られます。
精液検査項目
一般的な婦人科での精液検査(CASA) | つじクリニック | |
---|---|---|
○ | 肉眼所見 | ○ |
○ | 精液量 | ○ |
× | pH | ○ |
○ | 精子濃度 | ○ |
○ | 精子運動率 | ○ |
× | 精子生存率 | ○ |
× | 精子正常形態率 (クルーガーテスト) |
○ |
最近の婦人科での精液検査はCASA(精子運動解析装置)で行われることが多いため(スマホの精液検査はこれの応用です)、精子の形の評価(精子正常形態率:クルーガーテスト)や精子の生存率判定はできません。当院では、項目ごとに別々にやらないといけないため非常に手間は掛かりますが、WHO精液検査ラボマニュアルに準拠した正式な精液検査を行っています。
精液検査の流れ
※院内ではどうしても精液を出すのは無理という方は院外でとってきていただくのも可能です。専用の容器をお渡しし、注意事項を説明させていただきますのでご相談ください。
男性不妊症に対する意識が高まったとはいえ、わが国の不妊治療は女性中心です。奥様に連れられて婦人科の男性不妊外来を受診して、精子が悪いことが分かっても、男性不妊の治療はされずに体外受精になってしまうことも・・・。
当院では精子が悪いなら体外受精を・・・ではなく、精子を良くすることで、より自然に妊娠していただくことを第一に考えています。精子が改善すれば生まれてくるお子さんへのリスクも減りますし、体外受精を行うにしても成功率が上がり、奥様の負担を減らすことができます。
当院では、保険診療の枠にとらわれず,患者さん一人一人に最適な不妊治療を最高レベルで受けていただきたく、自由診療とさせていただいております。
男性不妊検査の意義
まずは男性から検査を
希望されて、1年たっても妊娠の兆しがなければ、まずご主人が男性不妊症の検査をうけましょう。なぜならば、奥様の不妊検査には身体的苦痛を伴いますが、男性の不妊検査にはなんの苦痛もないからです。そして、不妊の原因の50%以上は男性に不妊の原因があるからです。
夫婦で行なう不妊治療検査項目
子育てと同様に不妊治療もご夫婦が力を合わせて行うものです。 女性側に問題があっても、精子の質を向上させることにより、奥様の治療をより軽いものにでき、それは生まれてくるお子さんへのリスク(先天異常など)を減らすことにもつながります。 また、男性の不妊症の裏に重大な病気が隠れていることがあります。 例えば、不妊症の男性は精巣腫瘍(睾丸の癌)にかかりやすいことがよく知られています。
男性不妊の検査や診療については、まだ一般的に知られていないこともあり、不安に感じる方も多いと思います。どういった検査項目があるのか説明いたします。
男性不妊検査:触診検査
診察では、オーキドメーター(プラスチックでできた精巣の模型)と比較してだいたいの精巣(睾丸)の大きさを測ります。
精巣を触ったときの硬さも重要で、小さくて柔らかい精巣は精子を作る働きが弱いとされています。
次に、精巣上体(副睾丸)と精管も触らせていただき、腫れていたり、押えて痛みがないかを調べます。
男性不妊症の原因となる精索静脈瘤がないか陰嚢上部を観察し、触らせていただきますが、立ったり、いきんで下腹に力を入れていただいたりして、安静に寝ている時との比較をします。
外陰部の診察は恥ずかしいし、あまり気持ちの良いものではないでしょうが、痛みなどの苦痛をともなうものではありませんので心配いりません。
男性不妊検査:精液検査
精液検査は、男性不妊症の診断・治療において最も基本となるものです。当院では、WHO精液検査ラボマニュアル第6版(2021年)に準拠して詳細な精液検査を行っています。
精液は、精液採取室(プライバシーの保たれた防音室)にて、ご自分で採取容器に全量を採取していただきます。2~7日間の禁欲期間が適当とされていますが、当院では2~3日間の禁欲での検査を推奨しています。
また精液所見は変動することがあるため、少なくとも2回は検査する必要があります。検査は、精液採取室に隣接した検査室で行うため、採取容器を搬送していただくことはなく、精液が他人の目に触れることもありません。結果が出るまでに1時間ほどかかりますので、その間は外出されてかまいません。
男性不妊検査:超音波検査
超音波検査(エコーともいいます)は男性の技師が一対一で施行させていただき、看護師は同席しません。 タバコの箱のような探触子(プローブともいいます)を陰嚢に当てるだけで精巣(睾丸)がモニター上に描出され(正常精巣)、痛くもかゆくもない検査です。 まず、精巣の上下、前後、左右の径を計り、体積を計算します。 精巣内部にかたまり(精巣腫瘍)や小さな結石(微小結石)がないかを確認し、精巣の外にある精巣上体(副睾丸)や精管も詳しく観察します(精子の通り路に詰まりがあると、精巣上体や精管が拡張します)。
精索静脈瘤があると、内精索静脈が拡張して描出され、カラードプラ法では血液の逆流をカラーで見ることができます(精索静脈瘤)。
*特殊な超音波検査:精子が精液中にまったく見られない「無精子症」の場合には、経直腸的超音波検査を行うことがあります。肛門から人差し指くらいの太さの探触子を挿入し、前立腺や精のうを観察し、精子の通り路に詰まりがないか確かめます。肛門から探触子が入るので、気持ちのいい検査ではありませんが、痛みを伴うことはありません。
男性不妊検査:内分泌検査
血液中の卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、プロラクチン(PRL)、テストステロンを測定します。
卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)は脳の下垂体前葉から分泌されるホルモンで、性腺刺激ホルモンと呼ばれます。FSHは精巣(睾丸)のセルトリ細胞に働いて、精子の形成を促進し、LHはライディッヒ細胞に作用して、テストステロン(男性ホルモン)の合成を促します。分かりやすくいうと、FSHは精子を作らせるホルモンで、LHは男性ホルモンを作らせるホルモンです。
プロラクチン(PRL)はFSHやLHと同様に下垂体前葉から分泌され、産褥期に乳汁分泌を促進する働きがあります。男性でPRLが過剰に分泌されると、性欲や性腺機能の低下をきたすことが知られています。
これらのホルモンの値から、いろいろな病気のパターンを推測しますが、FSHが著明に上昇していれば精子を作る働きに問題があるのは間違いありません(精巣の精子を作る働きが悪いため、それをなんとかしようとFSHが増えていると考える)。
内分泌検査結果の解釈
卵胞刺激 ホルモン |
黄体形成 ホルモン |
テストステロン | プロラクチン | |
---|---|---|---|---|
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症 | ↓ | ↓ | ↓ | → |
造精障害 | ↑/→ | → | → | → |
原発性精巣機能低下症 (高ゴナドトロピン性性腺機能低下症) |
↑ | ↑ | →/↓ | → |
プロラクチン産生下垂体腫瘍 | →/↓ | →/↓ | ↓ | ↑ |
男性不妊検査:遺伝検査
精路の閉塞所見がない無精子症や高度の乏精子症(500〜1,000万個/ml以下)の患者さんは、遺伝的な異常を伴うことがあり、遺伝学的検査(染色体検査、遺伝子検査)を受ける必要があります。
男性不妊症の約7%に染色体検査で異常がみられるとされています。その頻度は精子数が少ないほど高くなり、無精子症の患者さんでは10〜15%に染色体異常がみられるのに対し、乏精子症では5%、正常男性では1%以下です。染色体異常の2/3は通常[46、XY](染色体検査=正常)よりX染色体の数が多いクラインフェルター症候群[47、XXY](染色体検査=クラインフェルター症候群)ですが、その他に染色体の構造異常も見つかります。
遺伝子検査が進歩して、従来の染色体検査では見つけられなかった遺伝子異常が診断できるようになり、無精子症や高度の乏精子症の患者さんの10〜15%ではごくわずかにY染色体の一部が欠けている(microdeletion=微小欠失)ことが明らかとなりました。下の図のAZF(azospermia factor)a領域やb領域が完全に欠失していると精巣内に精子がいる可能性は非常に低いと考えられています。 c領域の欠失であれば、無精子症でも精巣から精子が採れる期待が十分にありますが、その精子で男の子を授かられるとお父さんと同じように不妊症になる可能性が大です。
染色体や遺伝子の異常が見つかった場合は、顕微授精の前にカウセリングを受けられるのが良いでしょう。
*嚢胞状線維化症では非常に高率に先天性両側精管欠損症を合併することが知られています。さらに嚢胞状線維化症がCFTR遺伝子の異常によることが明らかとなり、欧米では先天性両側精管欠損症の患者さんはCFTR遺伝子の検査を受けることが推奨されています。しかし、日本人ではこの病気は非常に少ないため、わが国ではCFTR遺伝子の検査は一般には行われていません。
毎月第1土曜日には「男性不妊学級」という無料の勉強会を開催しております。当院を受診してくださいという内容ではありませんし、自由に質問もしていただけますので、ご夫妻で参加してみられてはいかがでしょうか。