男性不妊の恵比寿つじクリニック
男性不妊の恵比寿つじクリニック
診療内容

精索静脈瘤手術

精索静脈瘤手術の術式について

当院で行っている精索静脈瘤手術は,局所麻酔による日帰り顕微鏡下精索静脈低位結紮術です.顕微鏡下に観察して,精巣挙筋(精索の表面をぐるりとつつんでいる筋肉で,寒かったり,緊張したりすると,精巣(睾丸)がつり上がりますよね.それはこの筋肉が収縮するためです)は切断せずに,精巣挙筋動脈は残し,静脈は結んで,切断する。精索内部では,精巣動脈/精管動脈/リンパ管を残しますが,静脈は残らず結んで,切断します.

つまり精巣挙筋は切断せず,動脈・リンパ管は残し,静脈はすべて結んで,切ってしまうやり方ですが,当院では精管のまわりの静脈も切断しています.ここの静脈は残して構わないとされていますが(Microsurgical Inguinal Varicocelectomy With Delivery of the Testis: An Artery and Lymphatic Sparing Technique. Journal of Urology 1992;148:1808),例外はあるものでここの静脈を処理しないと,わずかですが精索静脈瘤が残ることがあります.
顕微鏡下精索静脈低位結紮術はもっとも確実な術式 (Treatment of Varicoceles: Techniques and Outcomes. Fertility and Sterility 2017;108:378) ですが,ほとんどの静脈は処理できていても,手術後に超音波検査で詳しくみてみると,小さな逆流が残っていることが当院でも0.5%くらいあります。精索静脈瘤の残存が認められたときに,静脈はすべて切断しましたが,残っているものがありましたと患者さんにご説明したいので,非常に神経を使う部分ですが,精管周囲の静脈も完全に切断しています.

米国のクリーブランドクリニック(https://health.usnews.com/best-hospitals/area/oh/cleveland-clinic-6410670/urology)で勤務しているときに,マイクロサージェリー(顕微鏡手術)のトレーニングコースを修了し, 1989年に帰国してからずっとこのやり方をやっていますので,ことさら特別な術式ではないと思っていました.ただ,最近になり顕微鏡で見ているといっても非常に簡略化した手術をされている先生方がいらっしゃいますので,標準的なものが非常に高度な手術として差別化がはかられているのだろうと思います.

だれが精索静脈瘤手術を受けるべきなのか

米国生殖医学会および米国泌尿器科学会では,①不妊のご夫妻で,②ご主人の精液所見が不良であり,③精索静脈瘤を触れ,④奥様には問題がないときに精索静脈瘤手術が適応になるとしています(Best practice policies for male infertility. Fertility and Sterility 2002;77:873).ただ,これは人口は米国のほうが3倍多いのに,体外受精は2倍行われているという日本の現状には当てはまらないでしょう.5回人工授精してご妊娠になれなければ,体外受精になるんです.精子が悪いのに,精子を改善するための治療はせずに体外受精になる,本末転倒ではないでしょうか.百歩譲って,精液所見が悪くて,体外受精をしてもご妊娠になれないのなら,精索静脈瘤を手術するべきです.

当院では精液所見が不良で,超音波検査で精索静脈の太さが3mm以上なら手術を受けられるのが良いと判断しており,この基準で70%の患者さんが手術前より良くなられています(第36回日本受精着床学会(2018)で報告).欧州泌尿器科学会のガイドラインでも,触って精索静脈瘤と思ったら,超音波検査で確認しなければならないとされています(EAU Guidelines on Male Infertility 2018).では,なんで見たり,触ったりの主観的な診断より超音波検査が正確なのに,最初から超音波検査せずに,触った後なんでしょうか?欧米の場合はコストだと思われます.欧米でなにより一番高いのは技術料で,超音波検査も非常に高額ですので,全員にやるのは医療経済的に認められません.日本については,男性不妊の超音波検査ができる検査技師が少ないことが理由としてあげられます.先日,大学で泌尿器科の超音波検査をずっとやってきたという検査技師さんとお話しする機会がありましたが,なかなか難しいと思いました.ましてや医師が診察の片手間にやる超音波検査は時間も短いですし,十分には観察できません.われわれの施設にエキスパートの超音波検査技師がいるからこそ出来ることです.手術前だけでなく,手術した後も超音波検査をしなければ,手術がちゃんとやれたかの判断はできませんので,必ず手術後も超音波検査を受けられてください.
当院では軽度の精索静脈瘤でも積極的に手術していますが,それは前述のように70%の患者さんが精索静脈瘤を手術されると精液所見が良くなることに加えて,手術のリスクがほとんどないといっていいぐらい低いからです.当院では相当数の精索静脈瘤手術をさせていただいていますが(当クリニックの実績),手術後に皮膚の下に血液が貯まった(皮下血種)患者さんがお二人いらっしゃるだけで,精巣が小さくなったり(精巣萎縮),精巣の周りに水が貯まるようになったり(陰嚢水腫)したことはありません.

きちんと診察,超音波検査すると精索静脈瘤は左だけでなく,右にもあることが多いですし(Varicocele: a bilateral disease.Fertility and Sterility. 2004;81:424),両方ある場合は左右ともに手術したほうが結果が良い(Bilateral is superior to unilateral varicocelectomy in infertile males with left clinical and right subclinical varicocele: a prospective randomized controlled study. International Urology and Nephrology 2018;50:205)ため,当院では両方手術してもリスクは変わりませんので,右にも精索静脈瘤がある患者さんでは両方を手術しています.
高度乏精子症や非閉塞性無精子症の患者さんでも,顕微授精の前に精索静脈瘤手術を受けられるメリットは明らかですが(Varicocelectomy before assisted reproductive technology: are outcomes improved? Fertility and Sterility 2017;108:385),奥様の年齢が高ければ顕微授精を優先する判断になることもあります.

当院では超音波検査を中心に診断して,軽度の場合でも積極的に手術しています.グレード1(お腹に力を入れると精索静脈瘤を触れる)であれば,他所で診察してもらったら精索静脈瘤はないといわれるかもしれません.当院でも二人の医師の間で触診の所見が食い違うことがしばしばあります.だから精索静脈瘤を見落とす(精子が良くなる機会を失う)ことがないように超音波検査をしているのですが,これをやり過ぎだとする意見を聞くとモチベーションが下がります.しかし,副院長の「せっかく精子が良くなるチャンスだったのにかわいそうですね」の一言で考えが変わりました.われわれは不妊のご夫妻にお子さんを授かっていただきたいだけです.なかなかご妊娠になれなければ,またご来院ください.自分(精子)が悪いのに,奥様に痛い目(体外受精)あわせるって間違ってないですか.少しでも奥様の負担を軽くするために,精索静脈瘤があるのであれば,手術を受けられるのが良いと思います.