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HPV感染が男性不妊の原因に!?

 現在もっとも頻度の高い性感染症はヒトパピローマウイルス(HPV)です.HPVには多くの型がありますが,尖圭コンジローマの病原体であり,女性では子宮頸がん,男性では陰茎がんの原因になることも分かっていますが,感染しても無症状のことも少なくありません.HPV感染と男性不妊の関連は以前から注目されてきましたが,最近それに関するふたつの論文が発表されました.

 ひとつ目は精液のHPV感染の妊娠への影響を検討したベルギーの研究で(Infectious human papillomavirus virions in semen reduce clinical pregnancy rates in women undergoing intrauterine insemination. Fertility and Sterility 2019; 111: 1135-1144),2017年11月から2018年11月に732カップルに行った1,362回の人工授精について調べると12.5%で精液がHPVに感染しており,HPV(+)と(-)で比較すると(+)のグループでは4倍(!)臨床妊娠率が低かったという結果です.

 ふたつ目は精液のHPV感染と精液所見,妊娠との関連について16論文(3,718名)のデータを統合的に分析したものです(Evaluation of human papilloma virus in semen as a risk factor for low sperm quality and poor in vitro fertilization outcomes: a systematic review and meta-analysis. Fertility and Sterility 2020; 113: 955-969). 解析結果からHPVは精子の濃度,運動率,形態に悪影響を与えており,厳密に評価した場合でもHPV感染精子の運動性が不良なのは明らかでした.また,HPV感染で体外受精の妊娠率低下と流産率上昇が認められましたが,この点については結論を出すにはデータが不足です.

 HPV感染が男性不妊の原因になるのは間違いないようですが,それじゃなんとかできないでしょうか?それについて興味のある論文がありました(Human papillomavirus prophylactic vaccination improves reproductive outcome in infertile patients with HPV semen infection: a retrospective study. Scientific Reports 2018; 8: 912).精液中にHPVが検出された不妊の151カップルで, 79人の男性がHPVワクチン接種を受け,72人は受けませんでした. 1年後にワクチンを打たなかったグループでは70.8%にまだ精液中にHPVが認められましたが,HPVワクチン接種を受けたグループでは10.1%に減少していました.さらに,男性がワクチンを打たなかったカップルでは15.3%しか妊娠しなかったのに対し,ワクチンを接種したカップルの38.9%が妊娠しています.さらに興味深いことには,妊娠したカップルの男性の精液中にはHPVがなかったということです.もっと検証しなければなりませんが,HPVワクチン接種により感染後であっても妊孕性を改善できる可能性があることが示めされています.

 わが国では,女性のHPVワクチン接種についての論争にもまだ決着がついていませんが,米国ではすでに男性にもHPVワクチン接種が推奨されています.この違いが将来子作りにも大きな差を生じさせるかもしれません.

助川 玄
恵比寿つじクリニック

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