肥満の不妊への影響はこれまでずっと指摘されており、米国生殖医学会の機関誌であるFertility and Sterilityの5月号でも特集されていますが、男性不妊に関してはあまりとりあげられていません。
肥満が精子の濃度や運動性に悪影響をおよぼすことは明らかですが、さらに今回は肥満と精子DNA損傷との関連について最近のデータをまとめた論文を紹介します(Male obesity may increase sperm DNA damage, potentially leading to male infertility and reduced chances of conception. Andrology 2023;11:1635–1652)。
動物実験でのデータでは肥満が精子DNA損傷を増加させることが明確に示されていますが、ヒトでの報告ではばらつきがありました。これは民族間の差や肥満の評価(BMI)や精子DNA損傷検査の違いによる可能性があるとしています。
肥満が精子DNA損傷を増加させるメカニズムについては、脂肪から分泌されるホルモン(主にはレプチン)や炎症誘発物質、性腺機能低下症、精巣(睾丸)の温度上昇などが直接的に精子のDNA損傷を引き起こすと考えられますが、肥満の人によくみられるインスリン抵抗性/糖尿病、脂質代謝の異常、睡眠時無呼吸なども間接的に精子DNA損傷を増加させる可能性があります。
精子DNA損傷は反復性流産や体外受精の結果に影響することが知られていますが、肥満は精子DNA損傷を増やすようです。世界中で肥満はここ40年間で3倍にも増加しています。肥満の父親の子供は肥満になる傾向があり、そうすると不妊も次の世代に引き継がれるという負のサイクルに陥ってしまいます。最近話題のプレコンセプションケア(Preconception Care:将来の妊娠のための健康管理)には、体重のコントロールが非常に大切です。
辻祐治
恵比寿つじクリニック