プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を抑制する働きがあり,胃潰瘍や逆流性食道炎の治療に最も使われているお薬で,皆さんもオメプラール,タケプロン,パリエットなどの名前を聞かれたことがあるかもしれません.
このプロトンポンプ阻害薬を長期間服用すると運動精子数が減ることをオランダの研究グループが発表しています (Are proton-pump inhibitors harmful for the semen quality of men in couples who are planning pregnancy. Fertility and Sterility 2016; 106: 1666-1672).
1996年~2013年の総合プライマリケア情報データベース(720の一般診療所,約150万人分の記録が登録されている)を調査したところ,子作り中で精液検査を受けた男性は2,473人であり,このうち総運動精子数が100万以下の241人と,総運動精子数が100万以上の714人のデータを解析し,プロトンポンプ阻害薬と総運動精子数の関係を明らかにした論文です.
6か月以内の服用ではプロトンポンプ阻害薬と総運動精子数が少ないこととの関連は明らかでないという結果でしたが,プロトンポンプ阻害薬を6~12か月間内服すると,総運動精子数が減少するリスクが3倍高くなることが分かりました.
この論文ではプロトンポンプ阻害薬による胃酸低下が,ビタミンの吸収を阻害することにより,精子の質が低下するのではないかと推測しています.日本では健康保険でプロトンポンプ阻害薬の長期間処方はできないことになっていますので,当てはまる男性はそう多くないと思いますが,一般的に使われているお薬が精子に悪いということがありますから注意が必要です.
阿部 典子
恵比寿つじクリニック