不妊の原因は男女半々「男の妊活」最新事情
精子も35歳から衰える!?
射精出来る限り、男性はいくつになっても子どもをつくれる。それは幻影です。35歳を境に卵子を劣化が進む女性と同じように、男性の精子も35歳から急激に、「精子力(=妊娠させる力)」が衰えて、妊娠の確率は下がっていく。あなたの精子は”元気”ですか?
「精子の数が少なく、動きも悪いですね。自然に妊娠するのは難しいでしょう」
東京都に住む教師のAさん(42)は、37歳の時に受けた精液検査で、医師からそう告げられた。
Aさんは35歳で3歳年下の女性と結婚。2年たって子どもを授からず、不妊検査を受けた。妻に不妊の原因は見あたらなかったが、Aさんは重度の男性不妊症と判断されてしまった。
精子力は”35歳”が曲がり角という報告が、昨年11月に発表されている。
この研究を指揮する獨協医科大学越谷病院の岡田弘医師(泌尿器科)は、こう解説する。
「精子には、受精した卵子を刺激して、受精卵を胎児に成長させる力があります。この『受精を促す能力』は、子どもを授かったことのある男性の場合、ほとんど低下しません。一方、不妊に悩む男性のなかには、この能力がもとから低い人がいて、さらに35〜40歳からガクンと下がるのです。」
受精を促す能力が低下する原因は、まだ解明されていない。加齢の影響は大きいと考えられている。
「精子の質は10代がピークで、精子の数は35歳以降毎年1.71%、精子の運動率は44歳以降で毎年1.74%低下します。遺伝子が傷ついた精子が増えていき『精子力』は衰えていくのです」(岡田医師)
世の中には高齢でも子どもを授かった男性もいて、俳優の上原謙は71歳、三船敏郎は62歳だった。インドでは90歳を超えたケースもあるが、あくまで特例だ。
子どもは”天からの授かりもの”ともいわれる。できるだけ自然に妊娠・出産したいという気持ちは理解できるが、悠長に構えていられない「現実」がある。
大宮中央総合病院の飯野好明医師(産婦人科)は、こう話す。
「晩婚化で、問題は深刻になっています。2012年の厚生労働省統計では、男性の初婚平均年齢全国で30.8歳、女性は29.2歳でした。妊娠する確率が下がる35歳まで、猶予は5年ほどしかありません」
射精した精液に精子がいない?
社会が多様化した日本では、子どもを作らないという選択肢もある。だがそれと、仕事やプライベートを優先して妊娠・出産を先送りにした結果、”つくれなくなる”のは別の話。
日本では、「避妊せず性交しているのに、2年以上たっても妊娠に至らない状態」を不妊と定義している。米国の生殖医学会の基準はより厳しく1年だ。
不妊に悩むカップルの正確な数はわからないといわれているが、6組に1組というデータもある。
「女性は35歳ごろから卵子の老化が進み、妊娠・出産のリスクが高くなる。そのため、不妊の原因は女性側にあると考えられがちですが、不妊の約半分は男性側の原因によるものなのです」(飯野医師)
男性不妊症の原因は、大きく次の三つに分けられる。イラストを参照しながら読み進めてほしい。
●造精機能障害
精子をつくる「精巣」の機能に問題がある。精子の数が少ない(または無い)、運動率が低い、健康な精子が少ない。
●精路通過障害
精子はつくられているが、通り道の「精管」などに問題がある。射精した精液に精子が少ない、あるいは含まれない。
●性機能障害
ED(勃起不全)や射精障害のため、精液を射精できない。
男性不妊症で最も多いのは造精機能障害で、約7割を占める。このうち約8割は、原因がはっきりしないものだ。
恵比寿つじクリニックの辻祐治医師(男性不妊治療外科)はこう説明する。
「性機能障害を除けば、自覚症状はほとんどありません。射精できるから大丈夫と考えがち。精液に健康な精子が十分含まれているかを知るために、一度は検査を受けてください」
とはいえ、股間の話は男の沽券に関わる大問題。初めの一歩が踏み出せない人は多いだろう。そこで、本紙記者B(39歳独身)に、体験してもらった。
「生活が不規則で、ジャンクフードもよく食べるので心配です。不妊に悩む同世代の友人も何人かいます。結婚して子づくりする前に、精液の状態を把握しておくのは大事ですよね」
と、B記者。精液検査を受けるのは今回が初めて。「オレは、果たして大丈夫か?」という不安から、クリニックに向かう坂道が、とても長く感じたという。
検査した恵比寿つじクリニックでは、世界保健機関(WHO)の基準で精液検査を行っている。精液量、pH値、精液濃度、総精子数、精子運動率、かたちが正常な精子の率、生存率、白血球の値が調べられる。
精液は、クリニック内の「採精室」で、自慰をして採取。費用は自費診療で約1万円だ。
検査結果が芳しくなかったとしても、ただちに「不妊症」とはならない。採精時の状況などで数値が変わりやすいため、問題があれば何度が検査を受けて診断する。
さて、B記者の検査結果はというと、「精子数はまったく問題ないが、動きがやや弱く、受精しづらい可能性があると言われました。精巣の温度が高いことが、原因のひとつとして考えられるそうです」(B記者)
精子の質は、生活習慣の見直しで飛躍的に改善するという。精子の状態は、全員の健康状態を表すバロメーターなのだ。精子力を高める鉄則を表に記した。
B記者は、感想をこう打ち明ける。「病院で自慰をすて検査をするのは恥ずかしい。でも、子どもが欲しい人は、自分の生殖能力を知っておいたほうがいいと思う。今回の検査結果は満足いくものではなかったけど、現状を知る上でやったよかった。年に一度ぐらいは受けてもいいかな」
辻医師からは「自分の精巣をもっと知るべきだ」というアドバイスもあった。「精巣の長径が3センチ以下の人は、精子をつくる機能が低い可能性があります。親指と人さし指でOKサインを作った時の丸が、おおよその目安になるので、触って確認してください」
造精機能障害の原因のひとつである「精索静脈瘤」も、自分で見つけやすい。睾丸の付け根にある血管が瘤状になる病気で精巣への血液の流れが悪くなり、精子の質が低下する。ミミズがうごめいているような感触がある場合、精索静脈瘤が疑われる。
実は、冒頭に登場したAさんにも、この精索静脈瘤があった。
Aさん夫婦は、地元の医療機関で3年間、不妊治療に取り組んできた。精子を直接卵子に注入して受精させる「顕微授精」にも2回挑戦したが、いずれも妊娠には至らなかった。そこで、男性不妊外来がある獨協医科大学越谷病院で、岡田医師の診察を受けたところ、左右両側に精索静脈瘤が見つかったのだ。
「精索静脈瘤は治療の効果が出やすい。内視鏡手術を行った結果、Aさんの精子の状態は飛躍的によくなりました。以前はうまくいかなった顕微授精に、術後3ヶ月の一回目で成功して妊娠。元気な赤ちゃんが生まれました」(岡田医師)
日本の体外受精技術は、世界でも最高水準を誇っている。だが、「技術」はなかなか「年齢」に勝てない。
今回取材した医師らは、「男性女性どちらかが35歳を超えているカップルは、一刻も早く、”男性女性両方”が検査を受けるべきだ。双方に不妊がみられるケースは珍しくない」と、声をそろえる。
先月末、お笑いトリオ「森三中」の大島美幸さん(34)が、妊活のため今年5月から芸能活動を休止すると発表して話題になった。
夫で放送作家の鈴木おさむさん(41)は、自信のブログにこうつづっている。《以前は赤ちゃんは簡単に出来るものだと思っていた。でも、そうじゃないことに気づいた(略)これから夫婦で検査に行ったりして、妻だけでなく僕も色んなことに気づけると思います》
夫婦二人三脚に臨む姿に、多くの声援が寄せられているという。