現代人は多種多様なストレスにさらされていますが,さらに妊婦には晩婚化,高齢出産などによる昔にはなかった新たなストレスが加わっていると考えられます.その影響が胎児に問題をもたらさないか気になる方は多いでしょう.
動物実験では妊娠中のストレスが雄仔(雄のこども)の生殖機能を障害する可能性が指摘されていますが,今回ご紹介する論文は人間での影響を検討したものです(The association between in-utero exposure to stressful life events during pregnancy and male reproductive function in a cohort of 20-year-old offspring: The Raine Study. Human Reproduction 2019; 34: 1345-1355).
Raine Studyと呼ばれる西オーストラリアでの大規模な研究データで,1989年から1991年の間に妊娠18週を経た3,000人について,妊娠18週および34週での母体へのストレス(妊娠についての心配・金銭問題・住居の移転・近親者や友人の死・結婚生活での問題など)が,生まれてきた男児の生殖機能に影響したかを調べています.長い経過をみていますので,最終的に評価できたのは643人ですが,妊娠早期にストレスがあると,男児が二十歳になったときの総精子数,前進運動精子数,男性ホルモン値が低くなっていました.妊娠後期のストレスは影響ありませんでした.男児の生殖腺は妊娠8-14週頃に形成されはじめるとされており,妊娠初期の母体へのストレスがやはり生殖機能に影響するようです.
生きづらい現代社会ですが,妊娠中とくに妊娠初期はなるべくストレスなく,心やすらかに過ごしていただきたいです.
助川 玄
恵比寿つじクリニック